2008年5月5日月曜日

日本の烏がぁ地球の裏側でぇ同胞の"ボケンセ"にぃ出会ったぁー

「つーかさー、日本でやたら"ボケンセ"って言ってる奴いるじゃん。俺はそんな奴、ボカのインチャだと認めねぇー。」

ある日本人が言いました。

4年前の夏、たぶん1月の中頃だったと思います。
ブエノス・アイレスのサン・テルモ地区にあるバールで、日本人の友人Hに久しぶりに会いました。
彼はボカファンで当時アルゼンチン在住。
そしてその在住・滞在歴は、前年の4月から住み始め、日本とアルゼンチンを行ったり来たりしていた私のそれよりも断然長いものでした。

「ボカファン」という軽い表現は、彼には適当ではないかもしれません。
とにかく熱狂的な奴で、1か月前に日本で行われたコパ・インテルコンティネンタルのためだけに帰国していました。(私もこの時日本にいてミランを応援しにカンチャに行きましたが、彼とは別行動)
そんな彼がアルゼンチンに戻ってきて、そう言ったのです。

4月7日の「サン・ロレンソの輝かしいニックネームたち」でちょこっと書いたように、"サンロレンシスタ"とか"ラシンギスタ"、"ベレサーノ"、"リーベルプラテンセ"、そして"ボケンセ"など、アルゼンチンでは日常会話でほとんど使いません。
試しにYahoo! ARGENTINA(私はなぜかヤフーっ子)で「"私はボケンセです"」をスペイン語で検索した結果、出てきたのは100件以下。

彼がそういうことを踏まえて言っているのはすぐに分かりました。
そして私はこう返したと思います。

「やだねー、たまたま好きなチームの近くにいるからってそうやって偉そうに言うの。俺らはここに住んでるから分かるけど、日本にいたら分からないじゃん。そんなのさ、ここに住んでて"ボケンセ"とか言ってる奴に言ってやれよ。つっても他にいないか、"ボケンセ"が。」

ブエノス・アイレスに住んでいる日本人は変わった人が多いです、私も含めて。
何かにつけて反主流で、サッカーにおいてもヨーロッパにはてんで興味なし。
ここでは主流のボカに対しても、シンパシーを感じているのは仲間内で彼しかいませんでした。
(今はどうか分かりませんが、数年前まではインデペンディエンテが一番人気)

この点では逆に変わっていた、つまり普通だったといえる彼は、熱狂度では一番だったにもかかわらず、「お前は長いものに巻かれただけだ」とか「ミーハーだ」とか言われ、集まる度にからかわれていました。
ただ「ボカファン」だというだけで。

彼がそう発言した理由は何だったのか。
単に、いわれなき「ミーハー」のレッテルを剥がしたかったのか、「自分は違う」と言いたかったのか。
あるいはミラン-ボカ戦で何かあってのことだったのか、聞いたかもしれませんが覚えていません。
覚えているのは、結果としてその後、彼が仲間から"ボケンセ"と呼ばれるようになり、しばらくそれが続いたことです。
(彼も心得ているので本気で怒ったりはしません)
いずれにしろ、今回の話の中では彼は準主役でしかないので、その辺の理由は置いておきましょう。


「日本の方ですか?」

ある日本人が聞きました。

先週の土曜日、朝からリベルタのチケットを取りにカンチャに行って、落胆してセルヒオと昼食を取った後、仕事を片付けに一人で中心街に向かいました。
仕事自体はちょっとしたことだったのですぐに終了。
しかし夜一睡もしていなかった私はさすがに疲れて、カフェで一息つくことにしました。

すると、日本人らしい青年が先に席についていて、私に「日本人か」聞いてきました。
一人でボーとしようと思っていたところではある。
しかし、日本人の友人はすべて帰国してしまったので、最近ろくに日本語をしゃべっていない。
懐かしさもあって、青年の同意も得ずに同じテーブルに着きました。

簡単に自己紹介を済ませて聞いたところによると、彼はサラリーマンでゴールデンウィークを利用してスーペルクラシコを観に来たとのこと。

「"ボケンセ"なので、一度はスーペルクラシコを観ておかないと。」

「いやいや、一度と言わず何度も観に来てくださいよ。いっそのこと住んじゃったらどうですか。」

そう言う彼にそう答えながら、引っ掛かるものがありました。
もちろん「ボカのファンだ」ということにではありません。
好きなクラブは違えど、日本の短いヴァケーションにイタリアの「ミラノデルビー」ではなく、アルゼンチンの「スーペルクラシコ」を選んだ彼には好感すら持てます。
かつてサラリーマンだった私も、GWに同じようなことをしているのですから。(私の場合、通もミーハーも好まないサン・ロレンソ-ロス・アンデス戦でしたが。。。)

引っ掛かったのは、言うまでもなく"ボケンセ"という言葉にです。
あの日のHが頭をよぎりました。
(こう書くと、ちょっとやらしいですね)
しかし、「また先輩風を吹かせて」と、冗談口調とはいえ事あるごとにHに言っていた私は、"ボケンセ"の青年に先輩風を吹かせたくないと思いましたし、「俺は"ボケンセ"だ」とまったく言わないわけでもないので、とりあえず聞き流しました。

また彼は、「"ボケンセ"たるものこうあるべき」というものがあるのか、"リーベル"というところを最後まで"ガジーナ"で通しました。
これもいいでしょう。
そういう徹底した人がここにもたぶんいるでしょうし、第一、私は"ガジーナ"ではないので。

会話は続きます。
彼のボカへの愛も十二分に伝わってきます。
だからこそ、この青年には先輩Hの熱い思いを理解して欲しいとも思えてきます。
4回目か5回目の"ボケンセ"を聞いた時、私はついに決心しました。

「あーそうそう、"ボケンセ"って普段あんまり使わないんだよね」

「え、そうなんですか? じゃあ"セネイセ"っていうんですか?」

そう言う私にそう問い返す彼。
もう止まりません。
この際、シクロンの如く思いっきり先輩風を吹かせてやろうじゃないか。

「『自分はボカのインチャだ』と言いたいなら、『ソイ・デ・ボカ』でいいと思いますよ。」

「"ボケンセ"も"セネイセ"もメディアの人は普通に使うけど、形容詞として使われる方が多いね。どちらかというと、"ボケンセ"より"セネイセ"の方が頻度は高いかも。」

「"セネイセ"は、これは俺も最近気付いたんだけど、"シェネイセ"とか"ジェネイセ"って言う人もいるね。まぁ、"シェ"と"ジェ"は個人差があるだけだから。友達(=セルヒオ)に聞いたら、正式には"セネイセ"だけど、"シェネイセ"って発音する人も多いんだって。」

「マラドーナのアイドルはボチーニで、本当はインデペンディエンテのファンだったんだよね。最初はのし上がるためにボカファンになりすましただけだったんだけど、今じゃすっかりボカだね。」

「マクリもそう、あいつは本当はラシンファンだよ。政治家になる野望があってボカに近づいただけ。」

「ボンボネーラ周辺に土産物屋がいっぱいあるけど、あの辺では買わない方がいいよ。高いし、ユニなんてほとんどバッタモンだから。」

「この辺でも、とにかく土産物屋はバチばっか。オリジナルを売ってるところは数ヶ所しか知らないな。ユニを買うならスポーツショップにした方がいい。」 

エトセトラ、エトセトラ。。。

「こちらでツアーに申し込んだのでチケットの心配はない」と、青年は言っていました。
試合はつまらなかったらしいですが、少なくともボカが勝ちましたので、満足して帰国の途に就いたことでしょう。
そして嫌なことに何一つ遭遇していなければ、「また来たい」と思ったはずです。

国籍がどこだろうと、自分と同じチームのファンだと言えば、アルゼンチン人は必ず喜んでくれます。
「お前は俺たちの誇りだ」とまで言ってくれる人もいます。
日本人だからといって、気後れすることはありません。

彼はもう"ボケンセ"を卒業しました。
この話の主役で"サンロレンシスタ"の私が、代わりに卒業証書を渡しています(笑)
彼は本物のボカのインチャになったのです。
そういうことでいいか? H君よ!